猫を尾行する

 2歳の末っ子と散歩している途中、いつも何匹かの野良猫の姿を見かけるアパートの前を通りかかった。そこにいる猫たちは大抵は寝そべっていたりじっと座っていたりするだけだが、その日は一匹のキジトラが歩いてくるのが見えた。私たちの立っているフェンスの手前で、アパートの敷地と隣接する駐車場とを区切るブロック塀が途切れており、猫一匹がちょうど通れるくらいの隙間がある。キジトラはその隙間から駐車場側に抜け出て、ブロック塀に沿ってまっすぐ進んだ。突き当たった所で向きを変え、駐車場を取り囲む塀に沿って遠ざかる。一台の車の陰で獲物を見つけたのか、伏せてお尻を振ってからパッと前方に飛ぶ動きを繰り返す。そのあたりでは猫の姿はもうかなり小さくしか見えないのに、子供は「ネコちゃん、どこ?」と繰り返しながら一歩も動こうとしない。

  やがてキジトラは歩き始め、20~30m進んで駐車場の入口にやってきた。ゲートバーの土台のコンクリ部分で寝転がり、コロコロと背中をこすりつける。そして道を横切り、近くの橋の欄干の間から顔を出し、何かをじっと見ている。その様子を後ろから歩く私たちがじっと見ている。橋を渡ったキジトラは、さらに道を横切り、大きなマンションに通じる階段を上って姿が見えなくなった。用もなくマンション敷地内に入るのは憚られたため、そこで私たちの追跡は終わりとなった。こちらが思っていた以上に広い範囲を移動すること、餌を探し回るというより自分の縄張りを巡回しているように見えたことが印象的だった。

  大人が1人でこんな観察をしていては不審者にしか見えないが、散歩中には子供の関心の赴くまま極力付き合うことにしたため、普段見られないものが見えた。